【なぜ専門家が政治に必要なのか】
海外では地方議員(日本でいう県議・市議など)に医師や弁護士、会計士などの専門家が多数在籍しているのは一般的です。
海外での地方議員は名誉職として考えられており、また議員としての報酬がほとんどないため、兼業議員が当たり前と考えられています。そして、日本のように議員として長期間・長時間の拘束はされず、仕事が終わった夜や土日で議会が運営されています。だからこそ専門職が地方議員兼業できるとも言えるのかもしれません。そういった兼業議員で構成されている海外でも、地方自治は全く問題なく運営されているわけです。
専業の政治家を否定はしませんし、その必要性は理解していますが、果たして地方議員のほとんどが専業政治家である必要があるのでしょうか。繰り返しになりますが、海外を見ても兼業議員でじゅうぶん地方議会は成り立っています。
日本では地方議員に高額の報酬が支払われている自治体が多い一方で、町村など議員のなり手不足に困っている自治体はその報酬が安い傾向にあります。これは見方を変えると「報酬が高ければ魅力的で、報酬が安いと魅力的ではない=お金が目的で地方議員を目指している」ということにならないでしょうか。
さらに、議員になれば1年目からベテランと同額の報酬がもらえるという点にも疑問が残ります。
被選挙権(立候補できる権利)を得たばかりの25歳が、専門的な視点を持たずに地方議員に当選すると、いきなり年俸1000万円-1700万円という高額報酬が得られるというのは、果たして地方議員としての本当に正しい姿なのでしょうか。
医師の世界で考えると、25歳というのは医学部を卒業して研修医1年目にあたります。直接的に命を直接預かる医師であっても、全国で一番高い年俸で900万円、全国の平均は400万円ほどです。最終的には神奈川県議会議員と同レベルの平均年収になる医師であっても、25歳での報酬は決して多くないのです。それと比較しても議員には1年目から高額な報酬が支払われていると言えるでしょう。
日本の一般社会において、年収1000万円を超える人は全体の5%であり、その多くの人が専門性の高い仕事に取り組んでいる人のはずです。果たしてこれだけの高額な報酬を地方議員に支払う必要があるのか、その価値があるのかという点について、皆さんにもお考えいただければと思います。
専門家が地方議会に入ることで、専門的見地から政策をチェックしたり方向修正していくことが可能になります。
たとえば今回のコロナ禍においても多額のお金が使われてきましたが、神奈川県議会議員に医師はおろか看護師など病院で患者さんと接する医療従事者さえもいませんので、医療現場を知らない人だけで様々な政策が決まってきたことになります。もちろん専門家の意見は聞いているのでしょうが、外部からの参考意見と議会内部での直接的な意見では、重みが違ってくること、また議会内部に専門家がいた場合と、外部の意見を求めた場合とで、判断の迅速さに差が出てくることは想像に難しくありません。
私は医師として神奈川県内外問わず各地の大規模ワクチン接種会場で問診担当・急変時対応医師として参加してきましたが、その運営には判断の遅さや無駄・無理があったと感じています。迅速な判断をすることで県民の皆さんの命を1つでも多く守れ、安心した生活環境を提供できるようになりますし、無駄をなくすことで財源を確保し、別な政策に回すことができます。さらに、医師ならではの視点であたらな経済政策を打ち出すことも可能になります。
医療だけでなく様々な分野の専門家が集まれば、それぞれの得意分野でもっと多くの無駄をなくすことが期待でき、暮らしやすい街ができると私は思います。
私の考える地方議会のあり方とは、高額年俸なのであればそれに見合った専門性を発揮できること、逆に本業で収入を確保できる人が兼業で集まり低額な議会運営費で専門分野を持ち寄って地方自治を行なっていくこと、そのいずれかです。
そして、いずれの方向性でも専門家が必要になるのは間違いありません。見る視点を変えれば、専門性のない人に高額報酬を払う意味があるのか、ということにもなると思います。
政治家とは職業の1つとして(言い方を変えれば転職先として)選ばれるものではなく、自己犠牲の精神を元に日本を良くしていきたいという気持ちで頑張るもの、それが私の持論です。そして、多くの政治家がそういった心構えで政治に参加してくれれば、二世議員など世襲の問題も自然と解決するはずです。
【政治の世界で専門性は身につかない】
政治の世界に数年いれば、政治家としてのノウハウは自然と身につきます。
最近の言葉で言えば、OJT(On Job Training)ができるからです。
皆さんの業界でも、未経験の新人が一人前に育っていくのと同じく、政治家も様々な経験を通していずれは一人前に育っていくわけです。
しかし、専門性は政治家を何年やっていても身に付けることができません。
医療の専門職でない人たちが医療についての政策にどれだけ取り組んだとしても、現場のことを分かるようにはなりませんし、医療の現場経験を積むことはできません。身につくのは「ちょっとその業界に詳しい人」どまりの知識だけです。
このように、専門性は政治家になってから育てられるものではなく、政治の世界に入ってくるときに外から持ち込む必要があるわけです。
そして上にも書いた通り、その専門性を発揮して地方議会を運営していくことが海外では一般的であり、県民の皆さんのメリットになると考えています。